581 / 2013

第581話

 そして少し身体を離し、こちらも真っ直ぐ兄を見返した。 「兄上はごく普通の親心って言うけど、それなら俺だって同じだよ。俺も、兄上に危ないことをして欲しくない。それがごく普通の子供心だ」 「子供心ね……」 「今はこんな状況だから、別行動をとるのもやむを得ないかもしれない。それならせめて、無茶だけはしないで欲しい。絶対に一人で死なないって約束して欲しい。出陣したら、必ず俺のところに帰ってきてくれ」  言葉での約束なんて、本当は意味がないのかもしれない。特に戦時中は、こんな約束などすぐに破られてしまう。  そんなこと百も承知していたが、それでも言わずにはいられなかった。約束を交わさずにはいられなかった。これから先、別行動をすることが増えるのなら、せめてもの心の支えとして「兄との約束」を持ち続けていたかったのだ。 「お前の気持ちはよくわかったよ」  兄はにこりと微笑み、こちらの髪を撫でてきた。 「大丈夫、今度はお前を置いて死んだりしない。私だってお前に泣かれるのは嫌だもの。どこにいても、必ずお前のところまで帰ってくるよ」 「本当か?」 「本当だって。お兄ちゃんが嘘ついたこと、ある?」 「……結構あるけど」 「でもこういう嘘はつかないでしょ。だからお前も信じて待ってて。……というか、お前だって気を付けなきゃだめだよ? ヴァルハラが襲われることだってあるんだから。基本は撃退して欲しいけど、危なくなったらすぐ逃げなさい。お前はお人好しだから誰かがピンチになったらすぐ助けに入ろうとするけど、今生き残っている戦士は自力で何とかできる人ばかりだから。お前はとにかく自分の命を優先すること。わかった?」 「あ、ああ……わかった」  そう頷いたら、兄はぐしゃぐしゃと髪を掻き回してきた。そして嬉しそうにこんなことを言い出す。

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