582 / 2013

第582話

「よしよし。じゃあ私が帰ってくる時には、美味しいご飯用意しといてね。できれば大きなステーキがいいな。ピピちゃんみたいな美味しそうなうさぎの肉でもいいよ」 「はあ? ピピは食料じゃないぞ。間違っても狩らないでくれよ?」 「ふふ、冗談だよ。ピピちゃんを狩ったらお前に一生恨まれそうだし。弟に嫌われるようなことはしないって」  そう軽やかに笑い、兄はくるりと背を向けて再び歩き始めた。アクセルもその後に続いた。 「それにしてもお前、『子供心』って使い方間違ってない?」 「他に言い方が思いつかなかったんだよ。ニュアンスが通じたならいいんだ。……ユーベル様にも『あなたは子供ですね』って言われちゃったしな」 「ありゃ、そんなことまで。ユーベルったら、言いたい放題言ってくれたね」 「いいんだ。自分が未熟なのはよくわかってるから」 「それがわかってるなら、お前もちゃんと成長してるんだよ。子供と言われて怒るのが子供だからね」 「……かもな。早く兄上に追いつけるように頑張るよ」  その後、兄は拡張工事の手伝いに行き、アクセルは厨房に行って食事係の作業を手伝った。本当は拡張工事の手伝いをしたかったのだが、「こっちは手が足りているので」と言われてしまったから、やむを得ずだ。 「やっほー! アクセル、久しぶりじゃん」  厨房に入った途端、赤毛の少年に声をかけられた。アクセルは目を丸くして彼を見た。 「……チェイニー? チェイニーなのか?」 「そうだよ、他に何に見える? 久しぶりすぎてオレの顔忘れちゃった?」 「いや、そういうわけじゃないが……よかった、きみも生きてたんだな」 「まあねー。オレ、ランクはそこまで高くないけど生前から結構図太くてさ。危ないところからはすぐに逃げるタイプだから、生き延びる確率は高いの」 「そうか……。とにかく、また会えてよかった」 「オレもだよー。アクセルったらいつもフレイン様と一緒にいて、オレが入る余地が全然なかったからね」  などと、冗談めかして言うチェイニー。彼は特に変わりないようで安心した。

ともだちにシェアしよう!