585 / 2013

第585話

 兄は石碑探しを頑張ってくれている。手伝いたいのはやまやまだが、ユーベルにも適材適所と言われてしまった手前、自分はここに残って兄の帰りを待つしかない。  ならばせめて、石碑が見つかったら自分が真っ先に破壊してやろう。そうすれば、この戦いも終わる。元の平和が訪れる。またヴァルハラで兄と暮らせる……。  ――石碑、早く見つかるといいな。  アクセルはそう願いながら、肉を捌くのを再開した。視線を落として作業していたため、チェイニーの口角がわずかに上がっていたことに気付かなかった。 「ところで、今日の夕飯はどうする? 一気に焼いてステーキにしちゃう?」 「いや……ステーキは焼きムラが出そうだし、最初に焼いたものからどんどん冷めてしまう。ここは大量に作れるシチューの方がいいだろう」 「わかった。いや~、ここでシチューが食べられるなんてラッキーだなー。オレ、アクセルのシチュー好きなんだよね」 「そうか、ありがとう。久しぶりだから失敗しないように気をつけないとな。兄上に『不味い』って言われたら大変だ」 「さすがにそれは言われないと思うけど。でもアクセル、これだけ雑に扱われてるのに、よくフレイン様に愛想尽かさないね」 「? 別に雑には扱われてないぞ?」  怪訝な顔でチェイニーを見返したら、彼は手を止めずに言った。 「でもさ、今日だって置いてけぼりにされてたじゃん? 書き置きのひとつでも残していってくれれば、心配する必要もなかったのにさ。その辺がなんか雑だなーって思っちゃう」 「兄上はもともとマメじゃないから、大雑把なところもたくさんあるんだよ。でもいざという時は俺よりしっかりしてるから、いいんだ」 「そういうものかな。オレからすると、アクセルばかり空回りしてるようで可哀想になってくるよ」  などと同情されてしまい、アクセルは密かに苦笑した。  ――確かに、俺の一人相撲なことはたくさんあるけどな……。  でもそれは自分が未熟なだけだから、兄が特別悪いわけではない。兄には深い考えがあるのだろうし、それを詳しく弟に話さないのは兄なりの思いやりであるはずだ。  まあ、嘘をつかれたのはちょっと悲しいけど……。

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