588 / 2013

第588話

 夕食の支度が済み、それぞれ適当に食事をとることになった。  アクセルはピピの分の食事も用意し(今度は昨日より多めに盛った)、地上への階段を上った。兄にも声をかけたのだが、 「私はこれからのことを会議しなきゃいけないんだ。面倒だけど、しょうがないね」 「……そうか。早く平和になって、一緒に食事したいな」 「ホントだよ。こんな戦い、さっさと終わらせなくちゃ」  本当にそうだな……と思った。  ラグナロクなんて戦争があるから、兄の動向が気になってしまうのだ。兄がついてくる小さな嘘に、いちいちモヤる羽目になるのだ。本当に迷惑な戦争である。  腹立たしいから、石碑が見つかったら真っ先にぶち壊してやろう。運命だか予言だか知らないけど、そんなものに振り回されて当たり前の日常が送れないなんて悔しいではないか。 「兄上」 「なに?」  早く石碑が見つかるといいな……という言葉が喉元まで出かかったが、口にするのはやめた。言ったら皮肉っぽくなりそうだったし、「何でお前が石碑のこと知ってるの」みたいにひと悶着ありそうだったからだ。そんなことでギクシャクしたくない。  だから結局、アクセルはこう言った。 「仕事、頑張ってくれ」 「ありがとう。お前も拡張工事頑張れ」  兄と別れ、地上に向かう。  地下に下りた時はまだ明るかったのだが、今ではだいぶ暗くなっていた。どうやら寝過ごしたのは本当だったようだ。一番星が輝いている。  そういえば、ヴァルハラに来て初めて兄と一緒に帰った時も、一番星が輝いていたなぁ……などと思い出す。今思えば、あの頃は平和だった。小さな事件に巻き込まれることはあっても、決められた死合いに出て当番をこなしてさえいれば、あとは自由に過ごすことができた。スポーツ選手みたいなものだ。  それが、あれよあれよという間にラグナロクに巻き込まれてしまって、今では地下での生活を余儀なくされている。自分の家はいつの間にか潰されてしまった。  あの頃が懐かしい。早くヴァルハラでの平和を取り戻したい。兄と死合いで斬り合う約束も、果たされていないのだから……。

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