589 / 2014

第589話

「ピピ、ご飯だぞ」 「ぴー!」  アクセルが出て行った途端、岩場に隠れていたピピが飛び出してきた。  ピピは嬉しそうにこちらに擦り寄ると、わくわくとトレーの皿を見つめてきた。肉も野菜もたっぷり煮込んだシチューである。昨日と同じようなメニューなのは申し訳ないが、味付けは変えたのでこれで我慢してもらおう。 「それにしても、ここがヴァルハラだなんて未だに信じられないな」  アクセルはピピに寄り掛かりながら、周囲を眺めた。  かつて生活の場があった場所としての形跡はなく、ただの平野が広がっているだけ。住居はもちろん、死合いが行われていたスタジアムですらなくなっている。唯一泉だけは湖のような大きさまで拡張されていたが、景色が全く違うのでヴァルハラの面影はなかった。  ――ヴァルハラでの生活、何だかんだで気に入っていたんだが……。  ここまで何もかも取り壊されてしまうと、全てが一からやり直しになる。戦士ランキングもリセットされそうだし、治安維持にも努めなければならない。死合いのスタジアムも自分たちの住居も、全部最初から建て直しだ。  まあでも、それだけ大掛かりなリセットなら、逆に頑張れそうな気もする。  自作したシチューを味わいつつ、アクセルは言った。 「早くラグナロクを終わらせたいな。そしたらヴァルハラに新居建て直して、広い庭も作って、ピピも一緒に暮らせるようにしよう。死合い以外は暇だから、時間が潰せるように趣味で家庭菜園でもやってみるか。そしたらピピも手伝ってくれるか?」 「ぴー!」 「そうか、ありがとう。なんかちょっと楽しみになってきたよ」  うんうん、と頷いてくれるピピ。  平和になったら、ここぞとばかりに兄上との広い新居を建ててやろう……と妄想しつつも、アクセルはふと呟いた。 「しかし、やっぱりモヤるんだよなぁ……」 「ぴ?」

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