590 / 2013

第590話

「どうして兄上は、嘘をついてまで俺に石碑のことを隠そうとするんだ? いくら隠そうとしても、これだけ狭い地下空間で生活してたんじゃ、すぐバレちゃうと思うんだけどな……」 「ぴー……」 「大事なことはみんなで共有して、対策を練った方がやりやすくないか? まあ、口の軽いヤツに漏れちゃったらマズいだろうけど、今のところ敵と通じてるヤツもいないはずだし……」  と、そこまで考えて、ロシェが巨人族のスパイだったことを思い出す。兄にも「お前はお人好しだから、悪い男に騙されないか心配だよ」と注意されたものだ。  そういう事実もあるから、裏切り者がいないと決めつけるのは早計かもしれない。  アクセルはシチューをかき込み、「うーん」と伸びをして、ピピに寄り掛かった。 「まあいいや。あまり考えすぎても気が滅入るだけだしな。俺は俺のできることをやるさ」 「ぴー」 「そうそう。もしここに敵が押し寄せてきたら、ピピはすぐに山に逃げるんだぞ? 俺はここで戦わなきゃならないけど、生き延びることが最優先だからな。死にさえしなければ、必ずまた会えるし……」 「ぴー!」  その途端、ピピが不服そうに鳴き始めた。アクセルの髪に噛みつき、服を引っ掻き、長い耳をパタパタと上下させている。 「いてて! ちょ、何だ? どうしたんだ? やめてくれピピ」 「ぴー!」 「わかった! 怒ってるのはわかったから! 暴力反対! 髪が抜ける!」  そう言ったら、ようやくピピは暴れるのをやめた。じっとこちらを見つめ、何かを訴えるようなまなざしを向けてくる。  アクセルは乱れた髪を直しつつ、ピピを見返した。 「……もしかして、一緒に戦いたいのか?」 「ぴー」 「いや、でも……相手は神だぞ? 巨人もたくさんいるし、化け物みたいなヤツもいっぱい出てくるんだぞ? それでもいいのか?」  うんうん、と頷いてくるピピ。そして舌足らずな言葉でこう告げてきた。

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