591 / 2014
第591話
「アクセル、すき。ピピ、いっしょ。ピピ、たたかう」
「ピピ……」
「アクセル、いきる。ピピも、いきる。みんな、いきる」
「……そうだな。みんなで生き延びなければ意味がないんだ」
誰がどんな思惑を秘めていても、自分たちはラグナロクを無事に生き延びねばならない。せっかくヴァルハラに来たのに、神と巨人の戦に巻き込まれて死ぬなんてまっぴらだ。
アクセルは微笑みながら、ピピを撫でた。そして冗談めかして言った。
「じゃあいざという時は、速い脚を貸してくれ。神や巨人から逃げられるようにな」
「ぴー!」
任せとけ、とピピが胸を張ってくる。ピピの背中なら自分と兄が乗っても余裕だし、万が一の時は頼りになるかもしれない。
もっとも、万が一のことなんて起こらないのが一番なんだが……と思いつつ、アクセルはボーッと空を見上げた。無数の星が墨色の空で瞬いていた。
――あの星たちは、いなくなった人たちの魂だって聞いた事があるが……。
平和な時はさほど気にしないが、戦時中は時々そんなことを考えてしまう。自分たちは滅ぼされたらどこに行くんだろう……と。
「……あんな風に、みんな星になるのかな」
「ぴ……?」
「でもヴァルハラの戦士や神や巨人が根こそぎ滅ぼされたら、天は星でいっぱいになっちゃうよな。定員オーバーで、流れ星になって落ちてくる星もあるんじゃないか? その星を捕まえたら、滅ぼされても復活できそうだよな」
「ぴー……」
「……なんてな。こんなこと言ったら兄上に笑われそうだ。今生き延びようって話をしたばかりなのに」
ピピにも呆れた声を出されてしまったので、これ以上考えるのをやめた。今は何より生き延びることを最優先にせねば。
「今日もここで寝ようかな。地下の狭いベッドより寝心地がよさそうだ。……ピピ、いいか?」
「ぴー♪」
「そうか、ありがとう。今度は寝過ごさないようにしないとな。寝坊してたら起こしてくれ」
ピピの毛並みは気持ちがいいから、つい熟睡してしまう。夕方近くまで寝ていたくせに、もう眠くなってきた。
アクセルはひとつ欠伸をすると、ピピに寄り掛かって目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!