593 / 2013

第593話(フレイン視点)

「おや、まだ根に持っているのですか? あなた、弟くんのこととなると本当に過保護ですね」 「そうじゃなくて。あの子に余計な情報を入れると、予想外のことをしかねないんだ。みんなの役に立ちたいからって、勝手に石碑探しに行かれても困るんだよ」 「わたくしは漏れていい情報しか話していませんが。そもそも、石碑に関しては弟くんのみならず、生き残っている戦士は薄々感づいているのではありませんか?」  それに関しては否定できない。むしろ自分たちは、感づかれていることを前提に動いている。  石碑を見つけて破壊してしまえばラグナロクは終わる……というざっくりした情報を流してしまえば、それに食いつく戦士は必ず出てくる。一刻も早く石碑を破壊したいと考える戦士が現れる。  それこそが、フレインたちの狙いだった。石碑をここに運び込み、誰かが破壊してくれることを待っているのだ。  若干後味の悪い作戦だが、普通に出陣するだけでも運が悪ければ死ぬ。それならば、石碑を破壊して消えたって同じことだ。  可愛い弟さえ生き残ってくれれば、誰が消えようと誰を忘れようと、フレインにとってはどうでもいい。薄情かもしれないけど、それが自分の考え方だ。  でも弟は人が良くて優しいから、石碑を破壊したら消えると知れば、それ以外の方法を考えようとする。誰も犠牲にならない方法を見つけようとする。  だから全貌を話さなかった。そんなことをしていたら、いつまで経ってもラグナロクは終わらない。それどころか、自分たちが先に滅ぼされてしまう可能性だってある。  誰か一人に犠牲になってもらう――それが一番平和で手っ取り早い方法なのだ。  ――あとは、アクセルが誰かにそそのかされなければ大丈夫……かな。  いざという時は、石碑が破壊されるまでどこかに弟を閉じ込めておこう。何なら両脚を切断してしまってもかまわない。どうせ泉に入れてあげれば復活するし。  一時的に苦痛や不便を与えようと、それがいい結果に結びつくなら、フレインはそういう非情な行為も躊躇わなかった。そこが弟との決定的な違いかもしれない。

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