599 / 2013
第599話*
「……ああ、すごい……もう出ちゃいそう……」
兄がさも気持ちよさそうに呟く。
「ねえ、お前は顔を汚されるのと全部飲み込むの、どっちがいい?」
「……!?」
「私はどっちでもいいよ。お前の好きな方を選ばせてあげる。……さ、どっち?」
「う……」
口の中でドクンと兄が脈打って、アクセルは焦った。
――どっちと言われても……。
飲み込むのは……そこまで好きなわけではない。青臭さと苦み、ほのかな塩気が合わさった変な味がする。口を濯いでも後味が残っているような感覚があるから、正直喜んで飲めるものではなかった。
でも、だからと言って吐き出すのは兄に悪いし、顔を汚されるのもちょっと面倒だ。それなら我慢してでも飲み下してしまった方が、後始末も楽なのでは……と思う。
どうしよう、どうしよう……とあれこれ考えているうちに、また兄が大きく脈打った。それにびっくりして反射的に喉奥をきゅっと縮めたら、
「……おっと」
「んぶっ……!」
予期せぬタイミングで口の中に熱を放出され、アクセルは目を白黒させた。独特の味がいっぱいに広がり、ぬるっとしたものが喉奥に流れ込んでくる。
「う……ぐ、んんっ……」
今更吐き出すわけにもいかず、一生懸命飲み下す。
選択肢を与えておきながら不意打ちで出すとか、本当にこの兄は意地悪だ。普段はのほほんとして穏やかなのに、こういう時だけやたらといじめてくるのは何故なのだろう。
「ごめんね、気持ちよすぎて出ちゃった」
と、悪びれることなく言う兄。
少し咳き込みつつ、じっとりと兄を見上げると、兄は上機嫌に笑って手を差し出してきた。
「じゃあ、そこの泉に行こうか。そのままじゃ困るでしょ」
「……そうだな」
兄の手を取りつつ、立ち上がる。
確かにこのままじゃ気持ち悪い。軽く顔も洗いたいし、水浴び代わりに泉に入るならちょうどいい。
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