600 / 2013
第600話
そう思って兄に従うと、兄は少しピピの方に目を向けて、言った。
「ピピちゃんはここで待っててね」
ピピは返事代わりにパタパタ耳を上下させ、またうつ伏せで眠り始めた。「やっと終わったか」と呆れているようだった。
――そりゃあ呆れるよなぁ……。
明日の朝ごはんは、謝罪代わりにピピの好きなニンジンをたくさん持って来よう……と考えつつ、アクセルは兄と泉に向かった。
夜の泉は静まり返っており、利用している戦士は誰もいない。少しホッとした。この暗さだったら近づかない限り顔はわからないとはいえ、事が済んだ後の顔を他人に見られるのはやはり抵抗がある。
さっさと身体洗って戻って寝直そう……と、泉の際でバシャバシャ顔を洗っていると、突然後ろから兄に抱き締められた。
何かと思って振り返ったら、兄は上機嫌に笑ってこう言った。
「じゃ、本番いってみようか」
「はっ……? 本番って何のことだ?」
「やだな、すっとぼけちゃって。せっかくやってるのに、口だけで終わりなんてあり得ないじゃないか」
「はあぁッ!? 兄上、口で処理したら終わりにするって」
「そんなこと言ってないよ。処理してってお願いしただけ」
しれっととんでもないことを言われ、軽く目眩を覚える。
なんだか騙されたみたいで納得できず、アクセルはぐぐぐ……と兄を押し返した。
「そんなのずるいぞ! だったら最初から『場所を変えて続きやろう』って言えばよかったじゃないか!」
「そんなストレートに言ったら粋じゃないだろう? やってることは同じなんだから、そんな問題ないじゃない」
「問題ある! なんで兄上はいつも俺を騙すようなことを……!」
「お前が素直すぎるんだよ。騙されないように気を付けなさいって、いつも注意してるのに」
「んなっ……! 俺のせいにするのか!?」
「でも事実だからねぇ。こんな馬鹿正直じゃ、お兄ちゃん心配になっちゃうよ」
「っ……!」
騙されやすいのは事実かもしれないが、そう言われるとさすがにムッとする。
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