604 / 2000

第604話

 大好きな相手を信じられなくなる。それが一番辛かった。他の誰に騙されたとしても、兄のことだけは純粋に信じていたかった。  それなのに、最近の兄は自分に嘘ばかりついている。手紙や石碑のことも含め、数え上げればキリがない。面白半分にからかうならともかく、こうも嘘が続くと本当に信じていいのか、また裏切られるんじゃないかと、余計な不信感が芽生えてしまう。  ――好きなのに……。  それ以上は言葉にならなくて静かにすすり泣いていたら、兄が上から覆い被さってきた。意外とたくましい腕でぎゅっと抱き締められ、耳元で囁かれる。 「ごめんよ、アクセル……私が悪かった。許してくれ……」 「…………」 「石碑のことはね、隠しているつもりはなかったんだ。改めて話さなかっただけで、それくらいはバレてるだろうと思ってた。地下施設は狭いし、お前はあの……赤毛の、同期の子と親しいからね。彼は情報通だから、きっとお前にも情報を流してるだろうって」 「そん……うっ」  覆い被さられたことで刺さりっぱなしだった欲望が変なところに食い込み、思わず小さな呻き声が漏れた。  兄はかまわず続けた。 「でも、確かにお前の言う通りだ。例え事情があったとしても、嘘つかれるのはやっぱり気分よくないよね。不信感が募ってしまうのも無理はない……。私だって、お前の信用を失うのは嫌だ」 「……兄上……」 「これからは、なるべくお前に話すようにするよ……。もちろん言えないこともあるけど、そういう時は『今は話せないからごめんね』って言うから。時々冗談言ったりからかったりするのも――お前が可愛くてついやっちゃうけど――お前がどうしても嫌だっていうなら、もうやめる」 「…………」 「……ごめんね、考えの足りないお兄ちゃんで」  兄の声が少し震えていた。それを聞いたら何だかたまらなくなって、アクセルは兄の背に腕を回して力強く抱擁を返した。

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