613 / 1999

第613話

 それから一ヶ月程が経った……と、思う。「思う」というのは、毎日変化のない生活を地下で送っているため、日付感覚が薄れているのだ。  ラグナロクが行われているというのに、アクセルは今まで一度も出陣を許されておらず、たまの外出はと言えば食料調達の狩りやら拡張工事の資材探しばかり。鍛錬はしているものの、いい加減身体が訛ってしまいそうだ。ここまで戦場から遠ざかっていると戦士(エインヘリヤル)の血が騒ぎ、そろそろ思いっきり武器をふるいたいと思ってしまう。  ――……こんなものか。  梯子を金槌で打ち付けたところで、アクセルは額の汗を拭った。  拡張工事はエンドレスで続いているが、緊急避難口はほぼ完成した。これでいざ敵が攻め寄せて来ても、ここから外に出られる。  後は石碑を見つけてここに運び込んで、誰かが壊してくれるのを待つのみである。  ……まあ、ちょっと後味は悪いけど。 「おや、もう出来ちゃったのかい?」  兄が後ろから声をかけてきた。今日の兄は非番らしく、一緒に地下施設に留守番している。他の主要メンバーは各地へ出陣だ。 「お前は手先が器用で仕事が早いね。こういう梯子もあっと言う間に完成させちゃう」 「梯子みたいな小道具を作るのは、そんなに難しくないからな。拡張のために地下を掘り進めている連中の方が大変さ」 「そうかい? あっちは武器持って暴れているだけでいいから、誰にでもできると思うけどね」  兄の大雑把な発言に、アクセルはちょっと苦笑した。そんな雑なやり方で拡張工事を行ったら、地下の天井が崩れ落ちそうだ。 「ところで、外は今どんな感じなんだ?」 「うん、順調だよ。目星をつけた箇所を同時に攻略中で、もうすぐ結果が出そうなんだ」 「そうか……。早く結果が出るといいな。でないと、俺たちの方が先に力尽きてしまう」

ともだちにシェアしよう!