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第616話
「おお、ピピちゃんいいところに! アクセル、逃げるよ」
「えっ……!? ちょっと」
半ば強制的にピピの背中に乗せられ、アクセルは焦った。
「待ってくれ! まだ地下に残っている連中がいるんだ! 彼らを逃がさなきゃ……!」
「今生き残ってる連中は、ピンチの時も自分たちでどうにかできるくらいの強者だよ。神器も持ってるし、何とかなるでしょう」
「だけどフェンリルには神器が通用しないんじゃ……!」
「それはハッキリとはわからない。でも、ピピちゃんはうさぎなんだよ? 狼に食べられちゃったら困るだろう? ここは一度距離をとった方がいい」
「っ……」
「ピピちゃん、できるだけ遠くまでいってね。ヴァルハラを出ちゃってもかまわないから」
「ぴー!」
途端、ピピはものすごいスピードで走り始めた。健脚を活かしてぴょんぴょん飛び跳ね、ヴァルハラから遠ざかっていく。
一瞬、フェンリルがこちらを見たような気がしたが、すぐに興味を失くしたように前を向いた。そして地響きを轟かせながら、ヴァルハラの中心まで歩いて行った。
――ああ……ヴァルハラが……。
ただでさえ何もなかったヴァルハラが、また狼たちによって荒らされていく。故郷のような場所を、敵に一方的に蹂躙されていく。自分は逃げることしかできない。それが悔しいし、切なかった。世界が滅ぼされていくとはこういうことなのか。ラグナロクとはこういうものなのか。
――こんなこと、一刻も早く終わらせなければ……。
そうしてしばらくピピの背中に乗り続け、アクセルたちは違う世界に逃げ込んだ。
そこはヴァルハラより更に荒れた平野が広がっていて、真っ直ぐな地面がとある場所でざっくり分かれていた。深い渓谷には、古くなった橋が大地を繋ぎ止めるように引っ掛かっている。
近づいて見てみたところ、その渓谷は底が見えないほど深かった。落ちたらそのまま死者の国に直行できそうだ。
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