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第619話
もう一度一歩踏み出し、足場を確かめてみる。体重を少し乗せただけでもギシ……と不安定な音がして、橋そのものもグラグラ揺れた。これではいつ崩れてもおかしくない。ピピが渡り切るのは正直難しいと思われる。
だからと言って、ピピだけここに置いていくわけにもいかないし……。
不安げに擦り寄ってくるピピを撫でながら、アクセルは言った。
「兄上。俺、もっと丈夫な橋がないか探してみるよ。それでもだめなら、こっち側で待機している」
「いやいや、今更それはないでしょう。ヴァルハラの地下施設ならともかく、こんな敵地の前でお前を一人にしておけないよ」
と、兄が渡りかけていた橋を戻ってくる。
「とにかく、一度監視塔まで行ってみよう。そこで今後どうするかをみんなで決めるから」
「……何だそれ? ここまで来てピピを置いて行けっていうのか?」
「いや、少しの間こっちで待っててもらうだけだよ。監視塔で会議が終わったら、また戻ってくればいい」
「その間、ピピは一人ってことか? 兄上の言う通り、ここは敵地の前なんだぞ。ピピを一人にしておくなんて、俺にはできない。話し合いなら兄上たちだけで十分だ」
俺に聞かせたくない情報もあるだろうし、と少し皮肉ったら、兄は悲しげに眉尻を下げた。
アクセルは更に言った。
「とにかく! 俺はピピを置いていくことはしない。ここでピピと兄上たちを待ってる」
「……どうしてもかい?」
「ああ、どうしても」
力を込めて、兄を見返す。
兄には心配されているが、アクセルだって何もできない子供じゃない。戦場での経験も積んでいる。いざという時はピピの脚があるし、一人で放置されても問題ないはずだ。
すると兄は、諦めたように小さく溜息をついた。
「……こういう時は、何を言っても無駄なんだよね。絶対言う事聞かない。普段は素直で聞き分けがいいのに、本当に困っちゃうな……」
「兄上……」
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