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第621話

 ――まあ、ないものはしょうがないか。  安全な場所ではないが、これだけ視界が開けているのなら敵が近づいてきた時もすぐに気付けるはず。ヤバい相手でも逃げ遅れることはないだろう……多分。  そう思い直し、アクセルはなるべく座りやすい場所を探すことにした。何かあったらすぐ合流できるよう、念のために橋の近くに腰を下ろす。ピピもすぐ隣に寝そべってきた。 「あの城にフェンリルが住んでいるのか……。見るからにおどろおどろしい城だな」 「ぴー……」 「まあ、城の主がいない間に城を攻略するのは当たり前だから、今がチャンスってのはわかるが」  ピピに寄り掛かりながら、自分の考えを口にする。独り言のつもりはないが、こうすることで考えが整理できるのだ。「話す」というのは意外と重要だと思う。 「それにしても、フェンリルは何でヴァルハラに行ったんだろうな?」 「ぴ?」 「少なくとも、俺たちを滅ぼすためじゃないよなぁ? あんなとんでもない大きさの狼から見れば、俺たち(エインヘリヤル)なんて取るに足らない微生物だろ。ピピですら丸呑みできそうな大きさだったしな……」  身体の大きな象は、蟻の巣を潰すためにわざわざ特定の場所に行くことはない。仮に踏み潰したとしたら、目的の場所に行く途中に蟻の巣があったから、たまたま踏み潰してしまった……という方が自然だろう。  そう考えると、フェンリルの目的は全く別のところにあったと言える。  だけど、あんな大群が必要になるほどの用って一体なんだろう……。 「そう言えば、例の石碑には『ラグナロクでフェンリルがオーディン様を飲み込む』って書いてあるんだよな?」 「ぴー……」 「なら、ヴァルハラに行ったのはオーディン様を飲み込むためか? だけど本来ヴァルハラにオーディン様はいないはずだ。あんな何もない空間に、何か用があるとも思えないんだが……」 「ぴ……」  目的を推測するには、少し情報が足りない。ここでただ待っているだけというのも時間がもったいないし、情報収集くらいしたいところだ。  でも、下手に歩き回って変な罠に引っ掛かっても困るし……。

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