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第624話

「……ピピ、どいてくれ。もう戻りはしない」 「ぴ……」 「……本当だ、約束する」  そう訴えたら、ピピはそろそろと上から退いてくれた。  アクセルはぐっ……と天を睨み上げ、それから起き上がった。改めて逃げてきた方向に目をやったら、ちょうどフェンリルが橋を飛び越え、悠然と巨大な城に帰っていくところだった。足元には目もくれていなかったが、途中にある監視塔に気付かず踏み潰してしまった可能性も否めない。ここからでははっきり確認できないので何とも言えないが。 「兄上、無事かな……」 「ぴー……」 「……いや、いい。ピピは悪くない。知らせてくれてありがとう」  軽く撫でてやったら、ピピはおとなしく身体をすり寄せてきた。  ピピがいなかったら、逃げ遅れてフェンリルに踏み潰されていたかもしれない。そういう意味では感謝せねばならないだろう。  ――でも、なるべく早く兄上と合流しないと……。  フェンリルは城に帰った。その城に今近付くのは危険だろうか。アクセルはフェンリルの能力を詳しく知らない。近づくとどうなるかもわからない。  こんな時兄がいたら、いろいろ知恵を授けてくれそうだが……。  ――いや、この期に及んでそんな甘ったれた考えじゃだめだな。  頼れる人はいないのだ。ここは自分で考えて何とかしなければならない。 「とりあえず、さっきの橋の前まで行ってみよう。それで様子を窺って、行けそうなら監視塔まで行ってみるか」 「ぴぃ……」 「大丈夫だ。フェンリルは城に戻ったし。象の巣に蟻が一匹近寄ってきたところで、象は気にしないはずだよ……多分な」  ホントかなぁ……という疑わしい目をしつつ、ピピは頭を下げた。背中に乗れ、と言っているみたいだった。  アクセルは素直にピピに乗り、橋の近くまで戻った。 「! これは……」  ボロボロだった橋を見て目を見開く。

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