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第625話

 渡るのも怖いくらいの不安定な橋は、全体が頑丈な氷で覆われていた。コンコン、と叩いてみてもびくともしない。試しに一歩踏み出したが、揺らぐこともなかった。  そう言えば、橋の周囲から城への道にかけてうっすら氷が張っている。逃げる前まではなかったから、これもフェンリルが通りかかったことによる変化だと考えてよさそうだ。 「通りかかるだけで周りを凍らせることができるのか……。やはりフェンリルはとんでもない神獣のようだな。間違っても相手にしちゃいけないことがよくわかった」 「ぴー……」 「でも、これならピピでも渡れるかもしれないぞ」 「ぴ?」  アクセルは二、三メートルほど橋を渡り、ピピの方を振り返った。ピピは橋の手前で立ち止まり、探るように前足を出したり引っ込めたりしている。 「ほら、大丈夫だよ。おいで」 「ぴ……」 「不安なら一気に走り抜けちゃえばいい。さ、氷が溶ける前に……早く」  アクセルに促されて腹を括ったのか、ピピはようやく一歩を踏み出した。とことことアクセルに近付き、不安げな顔で見つめてくる。 「よしよし、いい子だな。じゃあこのまま進むぞ。くれぐれも立ち止まらないように」 「ぴー」  アクセルはなるべく早足で橋を渡った。橋を渡りきるまでは大丈夫だと思うが、いつ氷が溶けるかわからない。  一分ほどで向こう側に到達し、改めて橋の方を振り返る。ちょうどピピが渡り終えたところで、地に足をつけた途端、褒めてくれと言わんばかりにこちらにすり寄ってきた。 「よし、無事に渡れたな。偉いぞピピ」 「ぴー♪」 「さて、肝心の監視塔だが……」  アクセルは橋の近くに建っている灯台のような建物を目指した。運よくフェンリルには踏み潰されずに済んだようだが、橋と同じく監視塔もカチカチに凍り付いていた。出入口と思しきドアも凍っており、そう簡単には中に入れなさそうである。

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