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第626話
試しに小太刀を抜き、ドアに向かって振り下ろす。が、「キィィン」と透き通った音が響くだけで傷一つつかなかった。何回か同じことを繰り返したけれど、小太刀の方が刃こぼれしそうだった。
「っ……硬い……石みたいだ……」
「ぴー……」
「何か別の方法を探さないとダメかもしれない」
他に入れそうな場所はないかと思って、監視塔の周りをぐるっと一周することにした。正面のドアは凍っていても、裏側の窓等は無事かもしれない。
――でも、これでもし中まで凍っていたら……。
想像するだに恐ろしい。兄やその友人たちが氷漬けになっているなんて思いたくない。そんなことになったら、自分はどうしていいかわからない。
でも、中で人が動いている気配がないということは……シーンとして物音ひとつ立たないということは……本当に最悪、全員氷漬けという可能性も……。
「……!」
出入口の裏側に来たら、思った通り裏口のドアを見つけた。同じく凍り付いてはいるものの、表側と比べて幾分氷が薄く、頑張れば突破できるのではないかと思われた。
アクセルはナイフとヤドリギ――神器ミストルティンを取り出し、ナイフで小さな切れ込みを入れた。死者の国で岩を破壊したやり方を思い出し、それに倣おうと思ったのだ。
作った切れ込みにヤドリギを埋め込み、内側で芽を生やす。すると、バキバキと派手な音を立てて、裏口を覆っていた氷が砕け散った。氷の破片はガラスのような強度で、表側より遥かに脆かった。
力ずくでドアを蹴飛ばし、何とか中に侵入する。
「兄上!」
監視塔の中は冷凍庫のように寒かった。長時間留まっていたら自分まで凍ってしまいそうだった。これは早いところ捜索を終わらせないと……。
「兄上! 兄上、無事か!? いたら返事してくれ!」
そう呼びかけながら、一階を歩き回る。会議用の円卓や椅子、ソファー等の家具があったが、どれも皆うっすらと霜が張っていた。使われた形跡はあるものの、付近で凍り付いている人物はいない。
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