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第627話
――……? もしかして、誰もいない……?
人の気配もなければ、氷像らしきものもない。一階はもぬけの殻だ。急いで二階、三階にも上がって一通り見て回ったが、誰かがいる雰囲気はない。
「う……」
いい加減睫毛が凍ってきて、アクセルは慌てて監視塔の外に出た。外ではピピがおとなしく座って待っていてくれた。
「ピピ、ちょっと身体貸してくれ」
「ぴ?」
きょとんとしているピピの腹部に、ぼふ……とダイブする。
ピピは一瞬「ひやっ」としたみたいだが、すぐにおとなしく身体を貸してくれた。もふもふで温い毛並みが心地よかった。
――ああもう……本当に凍るかと思った……。
防寒具なしで冷凍庫みたいな場所に長時間いるのは、常識的に考えても命懸けである。
通りかかっただけで周囲にここまでの影響を与えるなんて、改めてフェンリルの恐ろしさを思い知った。間違ってもあんなのと戦ったり、倒そうなどと考えてはいけない。
――しかし、ここにいないなら一体みんなどこに行ったんだろう……。
ピピで身体を温めながら、考えを巡らせる。
フェンリルは巨大だ。遠くからでもわかるし、足音もするから近づいてくるのも察知できる。ならば、襲われるより先に逃げたと考えるのが自然だろう。
それはそれでホッとするが、それなら兄たちは一体どこに逃げたのだろうか。そんなに遠くまで行く時間はないし、かといって周辺に隠れられる場所はなさそうだし……。
「アクセル、だいじょぶ?」
ピピがたどたどしい言葉で話しかけてきた。ピピはいつでも純粋にアクセルを想ってくれる。
「ああ、大丈夫だよ。だいぶ温まってきた、ありがとう」
「アクセル、しんぱい?」
「うん……そうだな。兄上のことはもちろん心配だが、他の三人も一緒だし。俺もピピと一緒だから、何となくいつもより大丈夫な気がしてるんだ」
「ぴ……」
「誰かと一緒っていうのは、どんな時でも心強いものだな。きみがいてくれてよかったよ」
そう言ってピピを撫でたら、ピピは嬉しそうに目を細めた。
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