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第630話
「……!」
階段を下りて数メートル歩いたところで、ガラリと景色が変わった。一気に視界が開け、明るい景色が一面に広がる。
――何だこれは……?
青々とした草原がどこまでも続き、空も透き通った水色。地下にいるはずなのに、外にいるかのような光景だった。
――幻か……魔法か……? これ以上進んでいいのか……。
幻か魔法が見えているのだとしたら、この先に進むのは危険ではないか。罠にハマりに行くようなものだ。時間も時間だし、一度ピピのところに戻った方がいいのではないか……。
「母上、待って!」
その時、どこかから子供の声が聞こえた。
何かと思い、アクセルはそちらに歩を進めた。少し離れた場所に金髪の女性と――同じくブロンドの小さな子供がいた。
「……兄上?」
年齢は五、六歳くらいだろうが、それでも一目見てわかった。あれは子供の頃の兄だ。アクセルが生まれる前の姿だ。
――うわぁ……兄上、めちゃくちゃ可愛いじゃないか……。
実際に見たのはこれが初めてだが、さすがに兄は子供の頃から容姿端麗だったようだ。綺麗な人は子供時代から可愛いのだと、改めて思い知る。
「母上、待ってってば!」
その兄が、女性に追い縋っていた。女性は馬車の前で困ったように兄を見下ろしている。
なるほど、あれが母親か。母も兄に似て整った容姿をしていたようだ。
ただ、会ったことがないせいか他人のように感じる。これといった懐かしさも覚えない。アクセルにとっての育ての親はほとんど兄・フレインだから、あの女性を見ても「自分の母」とは思えないのだろう。
彼女は言い聞かせるように言った。
「ごめんなさい、フレイン。もう行かなければならないのよ。あなたはいい子でお留守番しててね」
「どこに行くの? いつ帰ってくる?」
「あなたがいい子にしていれば、あっという間よ」
「…………」
それを聞いた兄は、黙って視線を落とした。そして小さく呟いた。
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