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第636話

「というか、今思えば随分変な人だったかも。『あなたの身内』とか言い出すし、そうかと思えば突然泣き出すし。なんかわけのわからない人だった」 「え……ええ……?」  話を聞けば聞くほど唖然とする。  兄の経験談は、まさに自分が今してきたこととほとんど同じだった。自分が小さな兄に向かって言ったことは、兄が昔言われたこととまるっきり一緒だった。  ――そんなことってあるのか……?  まるで、一瞬だけタイムスリップしてしまったかのようだ。今の自分が過去の兄に影響を与えるなんて、そんなことあり得るのか?  いや、ここは神の国だから現実ではあり得ないことも起こるのかもしれないが……。 「まあでも、結果的にその人の言った通り五年後に弟ができたから、私としては嬉しい限りだったよ。やっと家族が増えて賑やかになったからね。手はかかったけど、それもまた楽しかったなぁ」 「そ、そうか……」  一人だった頃は寂しさのあまり不貞腐れていた兄も、弟ができてからは楽しい毎日を送れたようだ。  確かに我が家は父も母もほとんど不在だったから、兄弟二人で仲良く生きていくしかなかったのだが。  ――ってあれ? ちょっと待てよ……?  アクセルの脳裏に、ある疑問がよぎった。  自分が見た幻は、兄が子供の頃に経験した過去だった。母が出て行ってしまったことも、知らないお兄さんに慰められたことも、全部実際にあったことなのだろう。  だとしたら自分は、一体どこから来たのだ?  母は出て行ってしまったし、父は戦場だし、子作りをしている時間はなかったはず。コウノトリじゃあるまいし、交わることなしに子供はできない。  だったら俺は? 一体誰の子なんだ? どういう経緯で兄の元に行ったんだ?  兄は以前「お前が母上から出てきたところをちゃんと見てる」と言っていたが、本当に見ていたんだろうか……。 「……なあ兄上」 「うん、どうしたの?」 「あの、俺たちって……」  本当に兄弟なのかな、という言葉が喉元までせり上がってくる。

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