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第639話
「え……いや、そんな……」
「私にとっては黒歴史みたいなものだから、お前にはあまり知られたくなかったんだけどなぁ……」
「……!」
言われてハッとした。
アクセルは兄の意外な一面が見られて嬉しかったのだが、兄からすると「あんなみっともない姿は弟に見せたくない」という妙なプライドが働くのだろう。気持ちはわからんでもない。自分だって、好きな人に対してはなるべくかっこいい姿でいたい。
でもその一方で、恥を共有することもまた大事なことなのではないかと思う。
同じ屋根の下で暮らす家族ならなおさら、いつもかっこいいだけではいられない。時には相手の嫌な面も見てしまうし、あまり知りたくなかったことも知る羽目になる。
だけど、そういう面も全部ひっくるめて「その人」だ。少なくともアクセルはそう思う。
「……まあ、確かに鍛錬する気も起きなかったみたいだが……あんな環境に置かれていたら、やる気が出ないのは仕方ないんじゃないか? そんなの別にかっこ悪いことでも何でもないと思うぞ」
「うん……まあそうなんだけど、子供の頃の思い出ってなんか恥ずかしくない? 未熟な頃の出来事だし、恥を恥とも思ってない行動をとったりするわけだし」
「……そうか? 俺なんか今でも恥ずかしいことばかりしてるが……兄上はむしろ、子供なのに随分聞き分けのいい人だと思ったよ」
「……そう?」
「ああ、もし俺だったら母上を追いかけて泣き喚きそうだしな。その点兄上は大人の事情を察した上で一人いじけてたから、ある意味では母上よりずっと大人だと思った」
パチパチと目をしばたたかせている兄に、アクセルは更に言った。
「それに、過去にどんなことがあろうと、あなたが俺の兄上であることは変わりない。あなたへの気持ちも変わらない」
「…………」
「これからもずっと大好きだよ……兄上」
そう言ったら、兄に強く抱き締められた。
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