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第640話
大切なものを愛でるように、後頭部を優しく撫でられる。
「ホントにいい子に育ったなぁ……。私にはもったいないくらいだよ」
「いや、そんな……。俺は何かというと兄上に迷惑かけてばかりだから、せめて気持ちだけは変わらずにいようと思って……」
「お前は昔からそうだね。ずっと私を好きでいてくれる。そういうところ、最高に愛しい」
軽くキスまで落とされて、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
アクセルは慌てて兄から身を離し、話題を変えた。
「ええと……ところで、他の人たちはどこに……?」
「地下に行ったよ。石碑の在り処はそこだってわかったからね」
「……地下? ということは、またこの階段を下りなければならないのか」
「いや、そっちじゃない。地下は地下でも、全然違う世界だよ。ついておいで」
そう言って、兄は監視塔まで歩いて行った。
監視塔の氷はほぼ溶けており、中の気温も適温に変わっていた。いや、ちょっと涼しいか。
「ほら、これ見て」
と、兄が本棚から一冊の本を取り出してくる。そこにはびっしりと文字が並んでいて、見ているだけで読む気力が失せてきた。ここに一体何が書かれているのだろうか。
「『巫女がお住まいの透ノ国 は、フェンリルの氷で作られている。入口は常に閉じられているが、そのために爪痕が広がっている』……ってね。これ大発見じゃない?」
「は、はあ……。確かに大発見っぽいが、それだけじゃ意味不明で何とも……」
「そんな意味不明ってほどではないでしょう。ここで言う『巫女』ってのは『世界の予言をした巫女』のことだし、巫女がいるなら近くに石碑もあるはず。万が一なかったとしても、重要な情報は絶対に握っているはずだ。で、その透ノ国への入口は爪痕にあるとも書いてある」
「はあ、まあそう読めなくもないが……爪痕ってそこの大渓谷のことだろ? 入口らしいものなんてどこにもないじゃないか」
そう言ったら、兄はニヤリと口角を上げた。ちょっと嫌な予感がした。
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