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第641話

 兄は本を元に戻し、監視塔を出た。アクセルもその後に続いた。 「ちょっと不思議に思ってたんだよね」  と、兄が橋の手前で足を止める。こちらもフェンリルの氷はすっかり溶け、元の不安定なボロ橋に戻っていた。この状態では、ピピは渡れそうにない。 「フェンリルは大きいからここを飛び越えられるけど、例えば他の神や巨人がフェンリルの城を訪ねに来た場合、どうするんだろうって。私たちみたいな人間サイズだったらいいけど、もっと大きな巨人だったらこの橋は渡れないよね」 「その時は、フェンリルが出て来て橋を凍らせてくれるんじゃないか?」  それでピピも渡れたんだし……と言うと、兄は少し首をかしげた。 「あんな大きな城の主が、わざわざ橋を渡らせるためだけに城から出てくるかな。それが大切な客人ならまだしも、唐突に尋ねてきた人に対してまで何とかしてあげるとは思えない。普通は『勝手に渡ってこい』って思うんじゃない?」 「はあ、まあそうかもしれないな……。しかし、それとさっきの入口の話と何の関係があるんだ?」  どうにも腑に落ちず、再度兄に尋ねる。先程から全く話が読めない。兄は一体何が言いたいのだろう。 「さっきの本の内容を見つけて、私たちはひとつの結論を導き出した」  と、兄が橋に片足を踏み出す。一歩目からギシギシ嫌な音が響き、長い橋がゆらりと揺れた。いつ切れてもおかしくないくらい、スリル満点の橋だ。 「この橋はおそらく、向こう側に渡るためにかけられたものじゃない」 「……はっ? 渡る以外の目的で橋なんかかけないだろ?」 「普通はね。だけどよく考えてみなよ。本当に渡るために作ってあるなら、こんな不安定な橋にしないはずでしょう。フェンリルの城から行き来する人も絶対いるはずなのに、いつまでもこんなボロ橋のまま放置してあるのは変だ。にもかかわらず、橋はここに一ヶ所しかない。こんな巨大な渓谷があるのに、だ」 「確かに……。でも渡るためじゃないんだとしたら、一体この橋は何のために……」

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