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第646話

 また子供時代の夢を見ていた。今度は自分が幼い頃の思い出だった。まだまともな分別がつかない二、三歳の話だったと思う。  地下で見た幻のように、そこにはとある日の光景が広がっていた。家で昼食をとっていた時のことだ。 「あにうえはおれとあそんでくれない」  ムスッと頬を膨らませて、小さなアクセルは兄を睨んだ。当時は兄も十四歳くらいの少年で、初陣に備えて日々鍛錬に明け暮れていたようだ。 「あにうえ、きのうはおれとあそぶっていった。でもあにうえは、またひとりでぼうをふったりかけっこしたりしてあそんでた。あにうえはうそつきだ」 「ごめんねアクセル……。あと、遊んでたんじゃなくて鍛錬だよ」  兄が困ったように弟を宥める。  戦士にとって鍛錬は日課として当たり前にこなすべきものであり、ほとんど義務のようなものだ。何ら咎められる筋合いはない。  だが幼いアクセルにはそれが理解できず、「あにうえがあそんでくれなかった」という面だけが残ったようだ。  そんな自分の幼い頃を目の当たりにして、成人したアクセルは一人で頭を抱えた。  ――はあ……俺ってこんな理不尽なこと言ってたのか……。  二、三歳の子供に「鍛錬の重要性を理解しろ」とは言わない。が、兄を困らせるとは何事だ。兄は毎日一生懸命自分の世話をしてくれて、鍛錬がある時は寂しくないように鍛錬場に連れて行ってくれて、家にいる時はいつも相手をしてかまってくれていたじゃないか。ちょっと遊んでもらえなかったくらいで拗ねるとか、意味がわからない。  ……いや、全部昔のアクセルがやらかしたことなのだが(小さすぎて覚えてないけど)。  兄は不機嫌になった弟に言い聞かせていた。 「お兄ちゃんはね、お前を守るためにもっと強くならないといけないんだよ。今のままじゃ、何かあった時にお前を守れない」 「おれはまもらなくていい! あにうえとあそんでいたい!」 「う、うん……。じゃあこれ食べたらかけっこでもしようか……。さ、口開けて」 「やだ!」  兄が差し出したスプーンを、アクセルはそっぽを向いて拒否した。

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