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第649話

 呆気にとられていると、ピピがすりすりと身体をすり寄せてきた。兄もにこやかに微笑み、わざとらしく口を開いた。 「ピピちゃん、すごく頑張ったのにねぇ? おかげで透ノ国に来られたのに、アクセルときたら寝てばかりなんだもん。困っちゃうよねー?」 「えっ……? 俺、そんなに寝てたのか?」 「うん。少なくとも、最後まで寝てたのはお前だよ」 「す、すまない……」  アクセルは急いで立ち上がり、ピピの全身を撫で回した。 「ありがとう、ピピ。きみのおかげでここまで来られたよ。後でご褒美のニンジンいっぱいあげるからな」 「ぴー♪」  嬉しそうに耳をパタパタさせ、服の裾を軽く食んでくる。本当は臆病なのに、よくあんな高いところから飛び降りることができたものだ。アクセルよりずっと勇敢かもしれない。 「ところで兄上、ここは本当に透ノ国なのか……?」 「そうだよ。何だか摩訶不思議な国だよね」  ピピを撫でながら、改めて回りを見渡してみる。  雲の代わりに浮いている小島は形も大きさも様々で、緑豊かな島もあれば、茶色の岩肌が剥き出しになっている島もあった。よく見れば、スタジアム風の建物が中央に建っている小島もある。かつて死合いが行われていたヴァルハラのスタジアムに似ていた。ちょっと懐かしい。 「あの小島は全部本物か?」 「多分ね。普通の方法じゃ行けなさそうだけど、どうやって行くんだろう」 「わからん。とりあえず、周辺を探索してみるか? 他の皆さんもどこに行ったのか気になるし」 「そう言えば、ジーク達はどこに行ったんだろうね? どこかに暗号でも残してあるといいんだけど」  アクセルは兄と一緒に近場を歩いてみた。  薄めに草の生えた広場を抜け、乗馬のできそうな道を通ったら、一軒の小さな家を見つけた。 「……ありゃ、こんなところに不自然な家があるよ。誰か住んでるのかな」 「さあ……? ちょっと覗いてくるか」  そう言って、アクセルは足を忍ばせつつ窓からそっと中を窺った。

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