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第656話
「はぁ……」
呼吸を整え、何とか自力で身体を起こす。しっかり下着とズボンを穿き直し、少し兄と距離をとった。
――結局絆されてしまった……。
兄の強烈な愛情に当てられると、つい状況を忘れて盛り上がってしまう。自分の悪い癖だ。透ノ国に来たばかりでいきなりワンラウンドやらかすなど、普通に考えたら正気の沙汰ではない。
「お前、身体は大丈夫? 休まなくて平気?」
「平気だよ、これくらい」
自分でやっておいて何を言ってるんだか……と少々呆れつつ、アクセルは他の部屋も調べてみた。
ここがかつて自分たちの住んでいた家ならば、間取りや家具の配置も変わっていないはず。リビングはほぼ同じだったが、キッチンや寝室はどうなっているだろう……。
「あれ、ここお風呂場になってるね?」
キッチンのすぐ横の扉を開けたら、何故かそこはヴァルハラで使っていたような今時の風呂場になっていた。当時は風呂もトイレも家の外にあり、家の中にあることはなかったはずである。かつての家と同じに見えるが、やはりところどころ違っているようだ。
だとすると、他の間取りや家具も違う箇所があるということに……。
「……ん?」
寝室に入ってすぐ、壁際に大きめの本棚があるのを見つけた。子供にはわからないような小難しい本がギッシリ詰まっており、見るからに重そうな雰囲気があった。
「……兄上、こんなところに本棚なんかあったか?」
「いや……模様替えはしたことあるけど、ここに本棚を置いた覚えはないなぁ……。そもそもうちには、こんな難しそうな本はなかった」
兄がそのうちの一冊を取り出そうとする。ハードカバーの分厚い本だったが、あまりにギッシリ詰め込まれているせいで、なかなか取り出すことができなかった。
「固いなぁ……。これじゃ本の意味がないじゃない」
「いや、ちょっと待ってくれ。これってもしかして……」
兄が取り出そうとした本を、逆にぐいっと奥に押し込んでみる。すると何かの手ごたえを感じ、ガコン、と本棚がズレた。
あっ、と思って本棚を横に引いたら、案の定その奥には全く違う景色が広がっていた。
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