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第657話
「おお、すごい。ビンゴだ。ここから違う場所に行けるんだね」
「そうみたいだな……。向こうの景色がちょっと不気味だが……」
遠目から見る景色は、穏やかなものとは言い難い。雲は灰色で時折ピカッと雷が鳴っているし、大地も荒れ果てて植物の類いがほとんど生えていなかった。城や塔はないものの、フェンリルが住んでいる周辺の地域に似ている。
――とはいえ、ここは進まないといけないんだろうな……。
透ノ国まで来てしまったのだ。今更後には退けない。
「兄上、ここで待っててくれ。ピピを呼んでくる」
そう言って、アクセルは家の外に出た。ピピはドアの近くで待っているはずだ。
「ピピ、待たせてごめんな。変な扉を見つけたから、きみも一緒に……」
だが、ピピの姿は見当たらなかった。「あれ?」と思って周りをキョロキョロ見回したが、丸くてもふもふしたシルエットはどこにもなかった。
「ピピ? ピピ、どこだ? 隠れてないで出てきてくれ! おーい!」
ピピは耳がいい。アクセルが呼びかければ、遠くにいても駆けつけてくれるはずだった。
が、そのまましばらく待ってみてもピピは一向に姿を現さない。
――おかしいな……どこ行っちゃったんだろ。
自分たちが場所もわきまえずに交わっているから、呆れてどこかへ行ってしまったんだろうか。だとしても、終わったら戻ってきてくれそうなものだが……。
アクセルは家に戻り、兄に報告しに行った。
「兄上、ピピがいないんだ。俺、ちょっと探しに行ってく……」
だが、そこに兄はいなかった。本棚の扉は開きっぱなしのまま、忽然と姿だけが消えてしまっている。
「あ、兄上……?」
慌てて全ての部屋を捜してみたが、どこにもいない。風呂場にもトイレにもクローゼットの中にもいなかった。
「兄上! 兄上、どこだ!? 返事してくれ、兄上ぇぇ!」
アクセルの声だけが虚しく部屋に響く。返事をしてくれる者は誰もいない。
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