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第659話
兄の好きな塊肉のステーキと、野菜をたくさん煮込んだスープ、小麦を固めて焼いた簡単なパンを作ってみる。久しぶりに思いっきり料理したせいか、かなり楽しかった。きっと自分は、「何かを作る」ということが好きな性格なのだろう。料理もDIYも好きだし、木彫りも好きだ。
――さて、完成したが……。
テーブルに料理を並べてから、念のためにもう一度全ての部屋を見て回り、外にも出て様子を窺ってみる。兄とピピはどこにもおらず、それどころか他の誰かがいる気配もなかった。
「はあ……」
仕方なく、一人寂しくテーブルに着く。
一体二人はどこに行ってしまったんだろう。気になるし、もし何か事件に巻き込まれていたら心配だ。
あと二〇分で一時間経つが、それまでに戻ってくる可能性は低い。そうなったら、自分は一人で先に進まないといけないのだが……。
「……いただきます」
しょんぼりとナイフとフォークをとり、ステーキ肉を切り分ける。柔らかく、ジューシーな肉汁が美味しかった。野菜のスープも塩気が利いていて元気が出たし、簡易パンも上手に焼けている。
だけど……どんなに美味しくてもどこか味気なかった。
――一人で食事したことはあるけど、やっぱり寂しいな……。
どうせ食事するなら兄やピピと一緒がいい。そっちの方が何倍もご飯が美味しくなる。
というか、今頃兄もピピもお腹を空かせているのではないか。腹が減っては戦ができぬというように、何か食べないことには透ノ国を進むこともできない。
「…………」
アクセルは席を立ち、余っていた野菜のスープを鍋ごと家の外に置いた。ピピが帰ってきた時にすぐ食べられるよう、蓋も開けておく。
テーブルの上にも、自分のとは別に兄の分も用意しておく。そして見つけた紙に一言記しておいた。
『兄上へ
ご飯を作っておいた。お腹が空いていたら食べてくれ。俺は先に進んでいる。
アクセルより』
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