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第661話

 目の前に現れた階段を見て、軽く溜息をつく。  ――罠にしてもあからさますぎないか、これ……。  降りていったらどうせ幻を見せられて、落とし穴に誘導されるんだろう。もうそんな手に乗るものか。  ……とはいえ、ここ以外に進む道はないのも事実。  ――他にダンジョン的なものはなさそうだしなぁ……。  もう一度周りを見渡してみたが、真っ平な荒野がひたすら広がっているだけで、家も塔も洞穴も落とし穴も、何一つ見当たらない。当然、戻る道もない。  というかこの状況、既に罠にかかっているのではないか? 他に道がない状況まで追い込んで、わざとこの先に進ませようとしているのではないか? だとしたら、やはり本棚から入ってきてしまったのは失敗だったか。  もう罠にはかかるまいと思っていたのに……。 「はあ……」  兄上がいてくれたらなぁ……などと考えかけ、ぶんぶんと頭を振る。  いつまでも兄に甘えてばかりじゃダメだ。小さい頃からさんざん苦労かけてきたんだから、いい加減自分一人で乗り切らないと。  アクセルは何度か深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて階段に一歩足を踏み出した。  構造や状況は似ているが、必ずしも同じ罠にかかるとは限らない。全く違うものが待ち構えているかもしれないし、そもそも罠でない可能性もある。  慎重に行けば大丈夫だろう……きっと。  アクセルは足元に気をつけながら、少しずつ階段を下りて行った。何かあったらいつでも抜刀できるように、片手は柄にかけておく。  ――しかし、透ノ国って本当にどういう世界なんだろう……。  ここに問題の巫女やら石碑やらがあると聞いていたが、思い出の家があったり地下への階段があったりと、わけがわからない。今まで経験してきたことの一部をなぞっているみたいだ。  いや、本当に記憶の一部をなぞっているのか? それこそが透ノ国の特徴なのか?  だとしたら、この先に待っているのは「過去の幻」ということになるが……。

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