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第662話

「……!」  階段の一番下に到着した途端、ぱあっと視界が開けた。地下にいるとは思えないような空間が広がっていた。  頭上には晴れ晴れとした青空が広がっており、目の前にはランニングしやすそうな散歩道が続いている。道の両脇には草木が生え、のどかな雰囲気を醸し出していた。  ――また幻か? しかしここは一体……?  見覚えはある気がするが、なかなか思い出せない。ヴァルハラではないし、生家でもないし、それ以外でのどかな場所と言えば……。 「……あっ」  少し道を歩いていたら、手作り感溢れるポストを見つけた。雨風に強い木でできており、手紙を出し入れしやすいようにちゃんと地面に設置されている。 「これは……!」  記憶が繋がり、アクセルは駆け出した。  これが自分の思い出をなぞっているのなら、あれは自分が作ったポストに間違いない。木の上にあるのが不便だからと、わざわざ地面に設置できるものを作ったのだ。  ということは……。 「……!」  まっすぐに道を走り、ある場所に辿り着く。それは大きな割にシンプルで品がよく、白壁の美しい屋敷だった。 「バルドル様……」  やはりここはバルドルがいた世界だ。かつて自分が人質に出された場所だ。数ヶ月だったけど、バルドルと一緒に生活した屋敷だ。懐かしい……。  ――バルドル様、今頃どうしてるだろう……。  ラグナロクが始まって、神や巨人の世界は混乱しきっている。噂によると、死者の国の住人すらも、地上に戻ってラグナロクという名の大乱闘に加わっているそうだ。もはや「死」の概念とは何ぞやというところまで来ているが、もしそうであるならば、バルドルが自分の屋敷に戻った可能性も否定できない。  ……いや、自分が見ているのはあくまで幻だけど。 「おわっ!」  その時、突然胸元に入れていたヤドリギが反応し始めた。ぐいぐいと芽を伸ばすように服を内側から引っ張り、屋敷の扉に向かっていこうとする。

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