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第663話

「ちょ、何だ!? 勝手に反応するなよ、おい!」  こんなところで服をビリビリにされるわけにもいかず、仕方なくアクセルは屋敷の中に足を踏み入れた。罠の臭いがぷんぷんする一方で、バルドルがいるのか確かめたいという気持ちもあった。例え幻であっても、懐かしい姿をもう一度拝みたかった。  ――静かだな。  屋敷内はシン……としていて、ほとんど物音がしない。その分、自分の足音が無駄に大きく聞こえて少し緊張した。もっともバルドルはこの広い屋敷に一人暮らしだったから、最初からあまり生活音はしなかったのだが。  ――バルドル様がいるとしたら、自分の部屋か食堂か地下倉庫ってところか……。  アクセルはまず、一番可能性の高いバルドルの部屋に行ってみた。屋敷の間取りは記憶の通りだったので、ほとんど迷うことはなかった。  ――開いてる……。  扉がわずかに開いているのが廊下から見えて、アクセルは忍び足で部屋に近付いた。何が出て来てもいいように、小太刀の柄に手をかけておく。  音を立てずに慎重に扉を開け、中を確認した。が、そこには誰もいなかった。少なくとも誰かがいる気配はなかった。バルドルの執務机の上には、彼が読んでいたであろう小難しい本がたくさん置いてある。  そのうちの一冊がヴァルハラのルールブックのようなものだったので、アクセルは思わず手に取ってパラパラ眺めた。  ――これ、バルドル様から借りたことがある……。  アクセルが「ヴァルハラのことを知りたい」と言ったら、この本を貸してくれた。かなり分厚い本で、細かな規則やヴァルハラの成り立ち、歴史等が書かれていたはずだが、ところどころ文字がかすれたり空白があったりしてちゃんと読めなくなっている。何が書いてあったか覚えていない箇所は、記述が曖昧になっているみたいだ。  ――やはり、俺の記憶をなぞった幻になっているみたいだな……。  再確認したところで、バルドルの部屋を出て他の場所に向かう。次は食堂だ。

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