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第664話

 一階に戻り、エントランスを抜け、脇の廊下を歩いて食堂に向かう。入口からそっと中の様子を窺ったが、ここにも誰かがいる気配はなかった。  パーティー用の大きなテーブルはあったが使われている形跡はなく、隅にあった四人用の小テーブルにはランチョンマットが敷かれている。  ここでバルドル様と毎日食事したなぁ……と思い出す。バルドルは本当に優しくて、こんな自分にも親切にしてくれた。人質ではなく、客人としてもてなしてくれた。一年にも満たない間だったが、バルドルの元にいて嫌な目に遭ったことは全くない。  弟のホズにも世話になった。盲目なのに物凄く強くて、「視力に頼らない戦い方」を教えてくれた。おかげで一段階強くなれた気がする。  そんな彼らを助けられなかったこと、自分がロキに余計な情報を渡してしまったことが、今でも心残りだった。死者の国で謝罪はしたが、それでも「どうにかして止めたかった」と悔やむことはある。  今頃、バルドルとホズはどうしているんだろう。死者の国もラグナロクに巻き込まれているんだろうか。無事でいて欲しい……。  これ以上の情報は掴めそうになかったので、アクセルは食堂を出て地下倉庫に向かった。  エントランスの隅にある階段を下っていくと、大きな鉄製の扉が見えてくる。ここも記憶の通りだ。かなり重かったから開けるのにも力がいる。 「っ……!」  扉に手をかけようとした時、再びヤドリギが反応し始めた。服の中から勝手に芽を伸ばし、裾から出てきた芽で取っ手に絡みつく。そして何の躊躇もなくバーン、と豪快に扉を開けてしまった。 「おい、そんないきなり……!」  誰かが中にいたらどうするんだ……と思ったが、開けた後ではどうにもできない。  仕方なくアクセルは片手にヤドリギ、片手に小太刀を構えて中に入った。  倉庫内の間取りはほとんど変わっていない。中にある棚も、収納されているものは違うが、配置はほぼ同じだった。  ということは、一番奥にはヤドリギが保管されていたガラスケースが……。

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