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第665話

「……!」  ガラスケースはあった。本来ならヤドリギが保管されているはずだが、ヤドリギではなく見覚えのない石板が保管されている。  ――何だこれ……?  アクセルはガラスケースに近付いて、上からそれを眺めた。  石板には何かの文字が刻まれているが、アクセルには線と短棒の集合体にしか見えない。普通の人間には読めない字なのだろう。  ――これ……まさか、探していた石碑か……?  いかにもそれっぽい石板だが、果たしてこれは本物なんだろうか。そもそも自分は幻を見ている可能性が高い。その中で現れた小道具も、幻と考えるのが妥当なのではないか。  でもこれが本物なら、さっさと破壊してラグナロクを終わらせてしまった方がいい気もするし……。 「……!」  突然、背後に誰かの気配を感じ、アクセルは反射的に身構えた。直感でバルドルではないと悟った。  絶対にロクなものじゃないと思って、振り返りざま、持っていた小太刀を振り払う。肉が切れた手応えがあり、当たり前のように鮮血が迸った。 「っ……!」  斬った相手の顔を見て、ぎょっと目を見開く。それは化け物どころか武器を持った男性でもなく、丸腰の若い女性だった。どこかで一度会ったかのような、見覚えのある顔だった。綺麗な白い頬に血痕が飛び散っている。 「……どいつもこいつも血の気の多い者ばかり。呆れるわ」 「あっ……ご、ごめ……」  動揺しているアクセルを軽く睨み、女性は無造作に頬の汚れを拭った。そしてアクセルを横に押し退け、ガラスケースの前に立つ。たった今斬られたはずなのに、それを物ともしていない様子だった。 「あの……すまない、大丈夫か……?」 「……自分から斬り付けたくせに、私の心配をするの? 変わってるのね」 「いや、だって……」  こんな若い女性だと思っていなかったから……というのは心の中の言葉である。丸腰の女性を斬ってしまうなんて、戦士として恥ずべきことだ。

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