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第667話
怪訝に思って女性を見たら、彼女は呟くようにこう言った。
「……何から何まで予言通りになってしまうのね」
「えっ?」
「こうなったら、もう仕方ないわ」
そう言うやいなや、女性はくるりとこちらを振り向いた。そして開き直るように石板を指差した。
「あんたが探している石碑はこれよ。さっさと破壊してちょうだい」
「はっ……?」
「ラグナロクを終わらせたいんでしょ。これを破壊すれば全ての予言はなかったことになるわ。さ、思い切ってやっちゃいなさい」
「いや、いきなりそんなこと言われても……」
アクセルとしては、戸惑うしかない。
確かに石碑らしいものは目の前にあるけれど、女性の言うことを鵜呑みにしてしまっていいんだろうか。また騙されているのではないか。
そもそも自分は今、幻を見ているのだ。ここはあくまで透ノ国の地下空間。バルドルの屋敷は幻に過ぎない。
だったら、幻の中で出てきた人や小道具も、全部幻なのではないか? この女性も謎の石板も、実際には存在しない幻影なのではないか……?
アクセルは探るように、こんなことを言ってみた。
「これが本当に例の石碑なら、あなたが破壊すればいいのでは?」
「えっ……?」
「わざわざ俺を指名して破壊させる必要はないだろう? あなたがやってもいいはずだ。何故そうしないんだ?」
「それは……」
「そもそもあなたは何者なんだ? 俺の母と同じ顔をしているが、正直いい気分にならないから誰かに化けているなら元の顔に戻ってくれ」
冷静に考えれば、危険極まりない挑発だ。もしこの女性が、とんでもない化け物だったらどうするのか。この場で殺されてもおかしくない。
ただ、この時のアクセルは、この女性に対して好意的な気持ちは抱いていなかった。イライラしていたと言ってもいいかもしれない。
わけのわからない世界で突然一人にされ、現なのか幻なのかわからないものを見せられて、嘘か本当かわからないことまで言われた……というのもあるが、女性が母親そっくりというのが何より不愉快だった。
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