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第669話
「幻? ……おかしなことを言うのね。ここにあるものは全部本物よ」
「……えっ?」
「透ノ国は全ての世界を映し出す。無数に存在する景色の中で、その人に最もふさわしい場所に連れて行く。そういう仕組みなの」
「そ……そうなのか……」
「というか、そんなことも知らずにノコノコやって来たの? どれだけ命知らずなのかしら。神経を疑うわ」
「……うるさいな」
この予言の巫女とやら、発言がいちいち挑発的なのは何故だろう。もっと普通の言い方はできないのだろうか。面倒な女性だ……。
あまり長いこと話していたら、余計にイライラしてしまいそうだったので、アクセルは端的に尋ねた。
「それで……あなたはここで一体何を? 石碑を破壊しに来たわけじゃないんだろう?」
「何ってこともないわ。ただ石碑を見に来ただけ。たまに確認しないと、何が書いてあるかわからなくなっちゃうのよね」
「予言の巫女なのに、石碑の内容がわからなくなることなんてあるのか?」
「あるに決まってるじゃない。これ、別に私が予言してるわけじゃないもの」
「……はっ?」
思いがけない言葉が返ってきて、アクセルは眉間にシワを寄せた。
彼女は「ふん」と鼻を鳴らして答えた。
「皆は私自身が予言してると思ってるけどね、私はただ石板に浮かび上がってくる文字を読んでいるだけなのよ。それを皆に伝えているに過ぎない。この文字を読めるのは私しかいないからね」
「は、はあ……そうなのか……」
「そうよ。なのに、何でもかんでも私のせいにして……。ラグナロクが起こったのも、世界が滅びるのも全部自業自得のくせに」
「? 自業自得なのか?」
「そうよ!」
突然巫女がキレ始めたので、アクセルは半歩後ろに身を引いた。
「きっかけはどうあれ、ラグナロクを始めたのは神自身よ! 話し合って解決するって選択肢もあったはずなのに、結局神々は戦うことを選んだの! 彼らは自ら滅びる選択をしたのよ!」
「…………」
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