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第674話

「確かに『石碑を破壊して~』云々と書いてあるのは嘘じゃない。でもその言葉の前に、『予言の巫女が石碑を破壊する』とあります。破壊するのは母上、あなたの仕事なんです」 「えっ……? 兄上、石碑の文字が読めるのか?」 「残念ながら読めるみたいだ。母上の遺伝かな? 忌々しいけどね……」  兄がそう言った途端、巫女が苦虫を噛み潰したような顔になった。  兄はかまわず続けた。 「ここに来て石碑を最初から読んでみたら、今までのことが日記のように全部記されていました。ラグナロクが始まるきっかけはもちろん、それより前の出来事も全てです。ちょっとした細かい違いはありましたが、大きな出来事は本当にそのままでした。本当に石碑通りの道を歩んでいるとわかった時は、鳥肌が立ちましたよ」 「…………」 「あなたは当然のことながら『巫女が石碑を破壊する』という部分も読めていた。石碑を破壊すれば石碑通りの道を歩まずに済むから、本当はすぐにでもそうしたかったはずだ。でも石碑を破壊したら、自分が消滅してしまうことも知っていた。だからできなかった……」 「えっ? そんなペナルティーがあるのか?」  兄の後ろで目を丸くしていたら、兄が肩越しに振り返った。 「お前にはそこまで話していなかったね。そうだよ、石碑を破壊すると破壊した本人が消えちゃうんだ。その人が存在した痕跡さえも残らない。最初からそんな人、なかったことになってしまうんだ」 「そんな……」 「だからオーディン様ですら、石碑を破壊できなかったんだよ。自分が生きていた痕跡すらなくなってしまうんだから。単純に死ぬより、よっぽど嫌だろう。自分の存在を根本から否定されるようなものだからね……」  衝撃を受けていると、巫女が忌々しげに呟いた。 「……本当に面倒な息子。私が育てなければ大丈夫だと思ったのに、何でそんな能力が付与してるわけ? 意味がわからないわ」  その言い草から、アクセルは全てを悟った。腹の底から湧き出るおぞましさに吐き気がして、思わず兄の腕を掴んだ。何か縋りつくものが欲しかったのだ。

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