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第675話

「あなたは最初から……自分の代わりに、俺たちを……。何もかも承知の上で、俺たちを犠牲にしようとしたのか……」 「だってそうしなかったら私が消えちゃうじゃない。そんなの御免よ」 「だからって、自分の息子を率先して犠牲にするなんて……」 「何よその言い方。わざわざ作ってあげたのに、文句言うつもり?」 「……!?」 「所詮、あんた達は私が生み出した創作物なのよ。私の創作物を私の好きに使って何が悪いの?」 「…………」  指先の感覚が徐々になくなっていく。血の気が引くというより、現実から乖離していくような、まるで夢でも見ているような、妙な感覚がした。  おそらく耳を疑うようなことばかり言われ続けたから、現実味が薄れてしまったのだろう。  ――何から何まで理解不能だ……。  この女性は一体何者なのだろう。正直、得体の知れない化け物にしか見えない。普通なら持っていて当たり前の感情が、すっぽり抜け落ちてしまっているみたいだ。 「私だってね、石碑通りにならないように努力してきたのよ」  と、巫女が口を尖らせる。その仕草は年端もいかない少女のようだった。 「私はずっと前から、『どうすれば自分が消えずに済むか』を考えていた。石碑が破壊されるのは書いてある通り決定事項だから、私以外の誰かが石碑を破壊してくれればいいと思った。それでいろいろな神をここに招いて、破壊させようとしたわ。でも、どうしても上手くいかなかった。いつもあと一息のところで失敗してしまった。そうこうしているうちに神々も私のことを怪しく思って、どんなに招いても透ノ国に来てくれなくなったの。もう長いこと、ここに客人は来ていないのよ」 「…………」 「神々にはもう頼れないかもしれない。こうなったら自分で『石碑を破壊してくれる人』を用意しなきゃと思った。だからあんた達を生んであげたの。一人じゃ不安だったから、念のために二人もね。でも私が子育てをしたら、石碑の文字が読めるようになってしまうかもしれない。それ以前に、情が湧いて代わり破壊させるのが惜しくなってしまうかもしれない。だから子供のうちに捨てたのよ。多少の苦労はあるだろうけど、いずれ兄弟二人共ヴァルハラに来て、透ノ国に帰ってくることはわかってたから」  ペラペラと開き直ったように話し続ける巫女。

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