676 / 2013

第676話

 細かい内容はほとんど頭に入ってこなかったが、彼女がひたすら自分の目的のために動いていることはわかった。どんな手を使ってでも、自分が消えない未来を掴もうとしていることはわかった。ある意味とても純粋で、とても意思が強いと言える。 「……あなたの言いたいことは理解した」  呟くように、アクセルは言った。 「石碑に従うつもりはない。こんな文字だけの石板に自分の運命を勝手に決められた挙句、むざむざ消えるなんて御免だ。その気持ちはよくわかる。そのためならどんな手を使ってもかまわない……その信念は、ある意味尊敬に値するかもしれない……」 「アクセル……?」  突然巫女に同意するようなことを言い出したせいか、兄が怪訝な顔でこちらを見た。  アクセルは兄の腕を掴んだまま、続けた。 「でもな、あなたはひとつ思い違いをしている。確かに俺たちは、あなたに生み出された創作物かもしれない。でも俺たちは機械じゃない。感情を持った生き物だ。自分の意思もあるし、嫌なことは嫌だと反発することもある。石碑を破壊しろと言われたからって、『はい、そうですか』と従うことはできないんだよ」 「はあ!? 何言ってるのよ! あんた達はもう十分楽しく生きたでしょ! 私が生んでやったんだから、少しは私のために働きなさいよ!」 「やかましい! 勝手な事情で俺たちを捨てたくせに、今更俺たちを利用しようとするな! 石碑の破壊はあんたの役割だ! 自分がやりたくないからって、勝手に俺たちに押し付けるな!」 「何度言ったらわかるのよ! 私にも事情があるんだって……」 「知るか! 俺たちにとって真実はひとつだけだ! あんたは自分の都合で俺たち兄弟を捨てたんだよ! あんたのために働いてやる義理はない!」  そう言い放ち、アクセルは兄の顔を見ながら言った。 「兄上、帰ろう。石碑に書いてある以上、巫女が石碑を破壊するのは決定事項だ。俺たちには関係ない。これ以上ここにいることは……」 「ちょっと待った! お前、その身体どうしたんだい!?」

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