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第677話

「……はっ? 何のことだ?」 「これ! よく見て!」  手を掴まれ、顔の正面に突き付けられる。  特に何も変わったところはない……と思いきや、手を透過してうっすら向こうの景色が見えていた。兄の手はハッキリしたままなのに、自分の手だけぼやけていた。 「透けてる……!? 何故だ!?」 「あっはっは! やっぱり罠にかかってるじゃないの! あんた馬鹿ね!」  巫女が高らかに笑い出す。  次の瞬間、兄が鬼のような形相になり、振り向きざま巫女に抜刀した。完全にぶち切れていた。  ところが……。 「そんななまくら、効かないって言ったでしょ。兄弟揃っておバカさんね」  正面から斬り付けられたのに、相変わらず巫女は痛がる素振りを全く見せなかった。首元から腰をバッサリ斬られて胴体が真っ赤に染まっているのに、苦痛の表情は欠片もない。 「というか、私が罠を仕掛けたわけじゃないわよ。あんたが勝手に罠にかかっただけ。人のせいにしないでくれる?」 「っ……」 「それに、そこまで怒ることじゃないでしょ。透ノ兵になるだけなんだから。単に姿が見えなくなるだけで、消滅するわけじゃない。石碑を破壊するのとはわけが違うのよ」 「透ノ兵……?」  すると兄はこちらを振り向き、ぼやけている肩を掴んで言った。 「お前、ここに来てから何か食べ物口にした!?」 「え……」 「まともな食事じゃなくてもいい。その辺に生えていた木の実とか……そういうの、一口でも食べなかった?」 「た、食べた……。俺たちの家に食料があったから、それを……」 「あああ……やっぱり……! その国の物を食べるとその国の者になってしまうって、ちゃんと教えておけばよかった……」 「えっ……!?」  驚愕に目を見開くと、巫女が追い打ちをかけるようにまた笑ってきた。 「ほらね、私のせいじゃないでしょ。あんたは勝手に罠にハマって勝手に自滅したのよ。全部自分でやったことじゃないの」 「っ……」 「困ったわね~。弟だけ透ノ兵になっちゃったら、あんた達永遠に離れ離れよ。声も聞こえないし姿も見えない。確実にそこにいるのに、触れあうこともできない。もどかしいわよねぇ?」 「そんな……」

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