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第679話

「な、何を……!?」  ぎょっとしている巫女にかまわず、アクセルは蔓の絡んだ腕をぐいっと引っ張った。そして巫女の手をしっかり掴むと、ヤドリギを鋭く変形させて石碑に向かって振り下ろした。 「いや……きゃああああ!」  耳元で巫女が悲鳴を上げる。そのせいで石碑の破壊音が掻き消された。  ヤドリギはアクセルの思惑通り、巨大な石碑を粉々に砕いていた。 「あ……ああ、あ……」  巫女はアクセルを思いっきり突き飛ばし、ヤドリギを強引に振り解いた。自らの両手を顔の前にかざし、透けてきた自分を見て更に悲鳴を上げる。 「……あああああ!」  巫女の金切り声は、今までにないほど耳障りだった。冷めた目で見ていると、巫女は般若のような形相でこちらに掴みかかってきた。 「あんた馬鹿なのッ!? 何で私を道連れにするのよ!?」 「馬鹿はあんただ。これだけ好き勝手なことをしておいて、自分だけ無傷で生きていられると思うなよ。どうせ消えるなら、あんたも道連れにしてやる」 「あ……あんた、頭おかしいわ! 道連れにするなら大好きなお兄ちゃんでしょ! こんなにベタベタしてるんだから、最期まで一緒にいたいと思うのが普通じゃないの!?」 「…………」  だいぶ悪意のある言い方だが、最期まで一緒にいたかったのは本当だ。自分だけ消えるのは寂しいし、残された兄がどうなるのか不安でもある。  でも……。 「あんたにはわからないさ。大事な人であればあるほど、道連れにはできなくなるものなんだ。例え自分がいなくなっても、その人には幸せに生きていて欲しいと思うんだ」  ギリギリと歯ぎしりしている巫女。歯ぎしりの音ももう聞こえなくなっていた。それだけ彼女が消えつつある証拠だ。  アクセルはやや悲しげに微笑んだ。 「もし生まれ変わることがあったら、あなたにも大事な人ができるといいな……母上」 「ち……ああぁぁぁ……!」  最期の叫びは、徐々にフェードアウトしていった。薄くなっていた巫女は、そのまま全ての色を失い空間に溶けていった。

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