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第682話(フレイン視点)

 どういうわけか、心にぽっかり穴が空いてしまったみたいに、一時的な快感が全部抜けていってしまうのだ。その時だけはほんの一瞬楽しくても、それが終わるとすぐまた虚しくなってしまう。  特に自分の家に帰った時がひどかった。わけもわからず胸が痛くなって、意味もなく涙が溢れたりする。自分は鬱状態なのかと思ってしまうほど、不安定な日々が続いていた。  おかしい。一体自分はどうしてしまったんだろう。何がそんなに辛いんだろう。やっと元の生活ができるようになったのに、何かが足りない気がする……。  ――死合いが終わったら、ピピちゃんの餌やりもしないとなぁ……。  自宅の庭で飼っている大きなうさぎの神獣。おとなしいが賢くて、言葉もちょっと喋れる可愛いペットだ。ラグナロク以前のヴァルハラではペットを飼うのは許可されていなかったが、平和になったせいか「ペットを飼う」とか「狩りに行く」とか、そういった余暇行動も制限がなくなっていた。  ただ、何でピピを飼い始めたかよく覚えていない。気付いたら一緒にいて、自然と家で飼う流れになっていたのだ。「ピピ」という名前も、誰がつけたのか不明だ。自分だったらもっとかっこいい名前をつけたと思うが、この呼び名が定着してしまっていたので今もそのままにしている。  ――やっぱり私は、何か大事なことを忘れているんじゃないだろうか……。  もともと自分は、物覚えはあまりよろしくない。どうでもいいことはすぐに忘れてしまうタイプだ。今覚えていないことは自分にとって取るに足らないことであり、思い出す価値もないことである。  だけど、この虚しさは……どうでもいいことじゃないんじゃないか。自分にとって欠かすことのできないことだからこそ、こんなに違和感を覚えているのではないだろうか。  そんなに大事なことを、何故自分は思い出せないのだろう。自分は一体何を忘れているのだろう……。

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