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第683話(フレイン視点)

 ――近いうちに思い出せればいいけど……。  そう思いつつ、フレインはボディーソープで髪と身体を一緒に洗った。そして急いで風呂を上がり、ジークが作った朝食のトーストを無造作に口に放り込んだ。  我ながらだらしない生活をしていると思うが、一人だとご飯を作る気にもならないのだ。ピピの食事は用意するが、自分のことはどうでもよくなってしまう。他の家族でもいればまた違うのかもしれないが、フレインはずっと一人暮らしだ。  そう、一人だったはず……。 「今夜はどうするんだ? 自分の家に帰るのか?」  出掛ける時、ジークがそんなことを聞いてきた。フレインは苦笑しながら答えた。 「そうだね。たまには帰らないと怒られそうだ。いつも世話になっちゃって悪いね」 「別に今更だろ。怒る気にもならんさ」 「ははは、そうかな」  軽く笑って答えたが、ここでの「怒られそう」というのはジークのことではない。彼は自分がどんな振る舞いをしても怒らず、丸ごと受け入れてくれる。  そうではなく、別の誰かに怒られそうな気がしていた。あまりにだらしない生活をしていると、「ちゃんと食事をとれ」とか「浮気するな」とか「死合いをサボるな」などとお説教されそうなのだ。そしてそれは、決して嫌なことではなかった。そうやって小言を言われることを、どこか嬉しく思っている自分もいた。  それもまた、おかしな感覚だ。  ――早く思い出したいなぁ……。  モヤモヤした気持ちを抱えたまま、フレインは死合いが行われるスタジアムに向かった。 ***  死合いが終わり、フレインは自宅に帰った。ピピにあげる野菜が足りなくなりそうだったので、市場によってニンジンやりんごを買い込んだ。 「ピピちゃん、ただいま」 「ぴー」  フレインが帰ると、ピピは庭に作った寝床から起き上がった。が、すぐまた身体を伏せ、藁の上に寝そべってしまう。

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