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第685話(フレイン視点)

 それは若い男性の木像だった。手作り感満載ではあるものの、非常に丁寧に彫られている。細かい顔の特徴も、すらりとした体躯も、上手い具合に表現されていた。  これは……この男の人は……。 「アクセル……」  途端、ぼろぼろ涙が溢れてきた。いくら拭っても収まらず、心臓が千切れるように痛む。  ――ああそうか……やっと思い出した……。  この子は私の弟。たった一人の、大切な家族。  彼は透ノ国で巫女と石碑を破壊して、この世から消えてしまったのだ。存在した記憶すら残さず、自分の目の前でいなくなってしまったのだ。ペナルティーとはいえ、一番大事な弟を今の今まで忘れていた自分に腹が立つ。  それと同時に、何をやっても満たされなかった原因はこれだったのかとようやく気付いた。弟と一緒なら何でも楽しいけど、弟がいなければ何をしていてもつまらない。  ――迎えに行かなきゃ……!  フレインは弟の木彫りを握り締め、家を飛び出した。ちょうどサラダを完食したピピが、怪訝な顔でこちらを見ていた。「ミルクはまだ?」と首をかしげている。 「ピピちゃん、今からアクセルを迎えに行くんだ。一緒に来るかい?」 「ぴ……?」 「ピピちゃんもアクセルのこと、忘れちゃった? でも『ピピ』って名前をつけたの、アクセルなんだよ。初めて会った時も助けてもらったんじゃないかな。そう言えば、ピピちゃんが小さい頃の木彫りも作ってたような気がするね」  ほらこれ、とピピにアクセルの木彫りを見せる。  するとピピはぱちぱちと目をしばたたき、木彫りに鼻面を寄せると、たどたどしくこう言った。 「アクセル、すき」 「うんうん、そうだよね。うちの弟は本当に優しくて可愛いもんね」 「アクセル、どこ?」 「それはまだわからない。でも痕跡は至るところに残っているんだ。完全に消滅したわけじゃないよ」 「ぴー……」 「ひとまず、オーディン様に会ってみようと思う。お願いしてどうにかなるほど甘くはなさそうだけど、やれることは全てやらないとね」

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