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第687話(フレイン視点)
フレインは少し足を止めて彼に話しかけた。
「やあ、ミュー。きみがこんなところにいるのは珍しいね」
「ヒマだから散歩してるの。死合いもあったりなかったりだし、あまりにランクが離れすぎてるとすぐ終わっちゃってつまんないんだ。今度はもっと骨のある人と戦いたいなぁ」
「ランゴバルトなら喜んで戦ってくれそうだけど」
「あの人は強いけど、自分が勝つまで挑んでくるから逆にめんどくさいの。それくらいだったら、多少実力は劣ってもあの子を相手にした方がいいなぁ。あのー……なんだっけ、フレインの弟さん」
「えっ……?」
ミューの口から弟のことが飛び出してきて、フレインは驚いて彼に詰め寄った。
「ミュー、アクセルのこと覚えてるのかい?」
「あー、それそれ。アクセルって名前だっけ。おぼろげだけど、覚えてるよ。イケメンのいい子だよね」
「そう、そうだよ。よく覚えてたね、私は今まで忘れてたのに」
「一度あったことは忘れないものだよ。思い出せないだけで。だから何かのきっかけでパッと思い出すことも多いんだってさ」
「……そうか」
フレインにとって、そのきっかけは弟の木彫りだったわけか。かつて弟がバルドルのところに人質に行く時、寂しくないようにと自分の木彫りを作ってくれたのだ。本当に、兄想いの優しい弟である。
「それで、フレインはどこ行くの?」
「今からアクセルを迎えに行くんだよ。どこにいるかわからないけど」
「? どういうこと?」
フレインは簡単に事情を説明した。とにかく自分は弟を復活させてヴァルハラに連れて帰りたい。最高神・オーディンなら何とかできそうだが、神でもない自分が直接会うことはできない。だから、バルドルに口利きしてもらって面会しよう……と。
「ああ、そうなんだ? じゃあ僕も行こうかなー」
事情を話したら、ミューは唐突にそんなことを申し出た。
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