691 / 2013

第691話(フレイン視点)

 バルドルなら、アクセルを取り戻すために手を貸してくれるはずだ。 「バルドル様、石碑を破壊して消えた者を復活させる方法はご存じですか?」 「石碑を……? それってもしかして、予言が書かれていたあの石碑かい?」 「そうです。アクセルは予言の巫女と共に、石碑を破壊して消滅してしまいました。でも命懸けで平和を取り戻したのに、本人が消えてしまっては意味がない。私は兄として、弟を取り戻す義務があるんです」 「……そうだね。可愛い弟を失ったままでいるのは、生きて行く上でとても辛いことだ」  バルドルがチラリとホズに視線を送る。  ホズはふいと視線を逸らし、ごまかすように明後日の方向を見た。目元がやや赤らんでいた。  ――そう言えばこの兄弟、死者の国でもラブラブだったっけ。  仲良し兄弟は一緒にいるに限る。  フレインは重ねて、尋ねた。 「私は今から弟を迎えに行きます。バルドル様、方法をご存じでしたら教えてください」 「方法か。私は、石碑を破壊した後についてはあまり詳しくないんだけど……ただ、普通に死者を復活させるのとは全然別の方法を取らなきゃいけないだろうってことはわかる」 「……と、言いますと?」 「私やホズみたいに、普通に死んだ者は死者の国に行くだろう? でも死の女王(ヘル)の許可が下りれば、意外と簡単に元の世界に戻って来られるんだ。だけど石碑を破壊した場合はそうじゃない。そもそも、魂が死者の国にない可能性がある。そういう人を復活させるのは、並大抵のことじゃないよ」 「かまいません。弟を取り戻すためなら、どんなことでもします」  力を込めてバルドルを見つめたら、彼は柔らかく微笑んだ。そして言った。 「きみは本当に、アクセルのことを大事に想ってるんだね。その目を見ればすぐにわかる」 「ええ。私にとって弟は全てですから」 「そうだろうね。きみなら、本当にどんなことでもするんだろうな」  とりあえず中にどうぞ、と言われたのでフレインはバルドルの屋敷に入った。  ミューとピピは屋敷前で待機することになった。というか、ホズに「お前らは入るな」と止められていた。

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