692 / 2013

第692話(フレイン視点)

「それにしても、派手に壊してくれたねぇ。普通に叩けば開けてあげたのに」  と、小言を言われたのでフレインは正直に謝罪した。 「申し訳ありません。止めるより先にミューが破壊してしまいまして」 「後でみんなに直してもらうよ。復活したアクセルも含めてね」  それを聞いて、少し安心した。アクセルを取り戻した暁には、バルドルのところに礼を言いに来なければ。  フレインが通されたのは、バルドルの執務室だった。ゆったりした部屋の奥に、広い机が置かれている。両脇には数冊の本が積まれていて、何かの仕事中だったことが窺えた。 「まずは父上に会ってみるといい」  と、バルドルが机に座って羽ペンを取る。ここで言う父上とは、当然最高神・オーディンのことだ。 「ラグナロクを無事に生き延びることができたせいか、父上は最近ご機嫌なんだ。今なら面会にもきっと応じてくださる。手紙を送っておくから、ヴァラスキャルヴに行ってみるといいよ」 「ありがとうございます。助かります」 「私も、親しくしていた者がいなくなるのは寂しいからね。出来る限り協力するよ」  バルドルが、一枚の紙にサラサラと何か書きつける。バルドルが手紙を送ってくれるなら、門前払いされることはあるまい。やはり一番に彼を頼ったのは正解だった。 「そう言えば、アクセルにはヤドリギを渡してあったと思うんだけど」  と、バルドルが机の引き出しを探る。 「ホズと地下倉庫の掃除をしていたら、ヤドリギの欠片らしきものを見つけてね。役に立つかもしれないから、持って行きなさい」  そう言って、バルドルは豆粒より小さな種をこちらに渡してきた。種の端からは新芽が出ており、何かを探すかのように左右にぴょこぴょこ揺れている。 「ロキにヤドリギを盗まれた時に、元のヤドリギから落ちた種らしいんだ。それがあれば、ヤドリギの位置もわかりやすくなるんじゃないかな」 「そうですね。これは非常に助かります。ありがとうございます」  フレインはなくさないように、ヤドリギの小種を懐に入れた。これがあれば、アクセルのことも捜しやすくなるに違いない。

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