694 / 2013

第694話(フレイン視点)

 ミューはペロペロキャンディーを咥えながら、言った。 「まあいいや。じゃあホズ様、お世話になりましたー。久しぶりに会えて嬉しかったよ」 「こっちは迷惑を被っただけなんだが。忌々しいから、さっさとアクセルを連れてこい」  ぶっきらぼうではあるが、ホズも何だかんだで応援してくれている。  フレインは礼を言いつつ、ミューやピピと共にバルドルの屋敷を離れた。そしてもう一度世界樹(ユグドラシル)を通り、オーディンの住むヴァラスキャルヴを目指した。 「オーディン様に会うのも、すごい久しぶりじゃない?」  と、ミューが言う。 「今年は破魂の儀式がなかったもんねー。代わりに神器選考会はあったけど。オーディン様、今はどんな風にはっちゃけてるか、ちょっと楽しみー」 「はっちゃけてるわけじゃないと思うけどね。でも、オーディン様もなかなか過激なことをするからなぁ……」  自分の片目を抉って力を得たり、自分の身を自分のために七日間生贄に捧げる――具体的には、神槍グングニルで自分の身を貫き、それを世界樹(ユグドラシル)に七日間掲げた状態にする――等をして、ありとあらゆる知恵を獲得したりしている。  そのため、オーディンの姿は会う度にガラッと変わっていることも珍しくなかった。片目がなくなったのを隠すために、つばの広い帽子を被って登場した時には何のイメチェンかと思った。  自分が強くなるためなら自分を犠牲にしてもかまわないという苛烈さは、血の気の多いアースガルズの神々を束ねるのにふさわしい性格なのかもしれない。  ――それだけ過激な神なら、こちらもそれなりに過激にいかないとだめかも。  そんなことを考えつつ、フレインは先に進んだ。  オーディンの住むヴァラスキャルヴは、屋敷ではなくひとつの町のようになっていた。  ヴァルハラを管理しているヴァルキリーたちが忙しそうに行き来しており、武器を作る小人たちや馬小屋を管理する仕事人も、それぞれ露店を構えている。  その町の中心に、天まで延びている階段があった。もしやあれが、オーディンへ続く階段なのだろうか……。

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