695 / 2013

第695話(フレイン視点)

「ねー、そこのお姉さん」  大胆にも、ミューが近くを通りかかったヴァルキリーに声をかけていた。 「この階段上って行けば、オーディン様に会える?」 「……見かけない方ですが、何用ですか。父に面会する時は、まず我々を通してからにしてください」 「さっき、バルドル様がオーディン様に手紙を送ってくれたよ。事情はわかってるはずだから、先に行かせてもらうね」  と、更に大胆に階段に足をかけるミュー。  次の瞬間、ヴァルキリーが背中の槍を素早く振り回した。  ミューは頭を反らしてそれを回避し、やり返すように首斬り鎌を横に薙ぎ払った。  ヴァルキリーは距離をとって刃を避けたが、追い打ちのように襲ってくる鎖鉄球は槍の柄で叩き落としていた。 「……なるほど、戦闘力はそれなりに高いようですね」 「ありがと。お姉さん、名前は?」 「ブリュンヒルデと申します。覚えていただかなくても結構です」 「うん、わかった。僕はミューだよ。僕も覚えてくれなくていいよ」 「もう一度聞きますが、父に何用ですか? 事前に面会の申し込みはしたのですか? くだらない用で父に無礼を働くつもりなら許しませんよ」 「くだらなくないよ、僕たちにとっては大事な用さ。ねぇ、フレイン?」  ミューがブリュンヒルデを見据えたまま、こちらに話を振ってくる。  代わりにフレインは言った。 「ラグナロクで犠牲になった弟を、オーディン様に蘇らせていただきたいんです。バルドル様にも、その旨を書いた紹介状を送っていただきました」 「父の元に届けられる手紙は、一度我々ヴァルキリーが全て検閲する決まりになっています。少なくとも私はそんな手紙が送られたことは聞いておりません」 「それはおそらく、直接フクロウに届けてもらったせいかと。バルドル様はあえてポストを使用していませんでしたので」  そう言ったら、ブリュンヒルデは不愉快そうに眉間にシワを寄せた。

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