696 / 2013

第696話(フレイン視点)

「我々の検閲を省略したということですか? そんなことが許されるとお思いですか?」 「僕らに言われてもなぁ。文句ならバルドル様に言ってくれる?」  正論ではあるが、ミューの発言は火に油を注ぐような言い方である。  案の定、ブリュンヒルデは八つ当たりするかのように再び槍を振り回してきた。ミューはひらりとそれを避けて、彼女と距離をとった。 「光の神ともあろう者が、規則を破るとは許せません! 何のために我々ヴァルキリーがいると思っているのですか!」 「いやだからさ、それはバルドル様に直接クレーム入れてくれる? 僕たちに八つ当たりしてもしょうがないじゃない」 「黙りなさい! おおかた、あなた達がバルドル様をそそのかしたのでしょう! 私がこの場で成敗して差し上げます!」 「やだなー、言いがかりなんて。お姉さん、ストレス溜まってるの?」  斬りかかってくるブリュンヒルデと対峙しながら、ミューは言った。 「しょうがないから僕、ここでお姉さんと遊んでるよ。フレインは先に行ってて」 「いいのかい?」 「いいよ。アクセルを取り戻すのに、余計な怪我をしてたら面倒でしょ。ストレス発散に付き合ってあげないと、このお姉さんしつこそうだしね」  そう言いつつも、ミューもまんざらではないような顔をしている。ヴァルキリー相手なら思いっきり武器をふるえるとでも考えているのか。  道中、いろいろやらかしてくれたけど、今始めてミューがいてくれてよかったと思った。 「ありがとう。じゃあ急いで行ってくるよ」  言い置き、フレインは素早く階段を駆け上がった。 「あっ、待ちなさい! 勝手に階段を上ることは許しません!」 「だから、バルドル様が先に手紙を送ってくれたんだってば。勝手じゃないよー」 「黙りなさい! 規則は規則です! 破った者には厳正なる処罰を!」 「お姉さん、美人なのに石頭で大変だねー。もう少し柔軟になった方が、ストレスも溜まらなくていいと思うよー」  軽口を叩きつつ、ミューも首切り鎌で応戦している。

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